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あつぼし見上げて夜話

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第96夜「かすり月食と人工光」(2013年4月26日号)



 この記事がアップされる日の夜明け頃、月が沈みました。実はそのとき月食が起こっていたのですが、気づかれたでしょうか。たぶんほとんどの皆さんは「えっ」と思われたでしょう。私はこういう月食のことを「かすり月食」と呼んでいます。つまり、地球の本影の端っこをほんのちょっとかするだけだったからです。

 最大食分になったのが5時10分でしたが、そのとき月の2%が欠けただけでしたので、まさしく「かすり月食」でした。しかも、例えば東京ではその16分も前に月が沈み、その時の食分はわずかの1%、さらに東の東北地方ではずっと前に沈んだので、かすりもしなかったと言えます。月没が遅い西日本はいくらか有利で、例えば沖縄の那覇では、食最大の5時10分に、まだ月は水平線上10度弱の所にいました。東京などと違って水平線近くに都市光は少ないでしょうから、天気さえ良ければ見えたかも知れません。

 ともかく、天文現象が少ない今年を象徴するような情けない月食でしたが、反面、月はいつも堂々と光っています。だからこそ、オジギソウが満月頃におじぎします。つまり、満月の光を避けて夜は体を休めているのです。貧弱な月明かりでは光合成には不足だからです。昼間のさんさんと(だから太陽を英語でサンというのはつまらない冗談)注ぐ強烈な日光を、ベストコンディションで利用して光合成をしているのでしょう。人間の体の中にもある生体時計を最もたくさん持っている生物は、なんと植物だそうです。

 高速道路や町中を照らすライトは、夜行性動物にはもちろんのこと、ほとんどの植物たちにとって大きな負担になっていると言われます。特にLEDなどの青色光は、メラトニンの分泌を抑制させて、人々を不眠症にさせます。また、メラトニンの量は年齢と共に低下し、アルツハイマー病の原因にもなるそうです。便利に使っている人工光にも負の部分があることに気づかせてくれた「かすり月食」でした。

※4月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。


プロフィール:金井三男(かないみつお)さん

 もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。

 「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。