集まれ!星たち〜ひとつひとつは微かでも〜

あつぼし見上げて夜話

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第42夜「南十字星」(2012年4月13日号)



 南十字星は、残念ながら東北地方はもちろん、私が住む関東でも、そして四国・九州でもほとんど見ることが出来ません。沖縄の波照間島や石垣島では何とか見ることが出来ますが、やはりゆっくり見ようと思えば日本を脱出し、グァム島やインドネシア、オーストラリアなどに行く必要があります。やはり異国の星たちですね。

 戦争中(私は知りませんが・・・)は、さらばラバウルよ・・・椰子の葉陰に十字星・・・と歌われていたほどに、異国情緒豊かな星座でした。

 そればかりでなく、南十字を見ることが出来ない東北地方も、それと深いつながりがあります。宮沢賢治さんが主人公カンパネルラの最期の地として選んだ銀河鉄道はもちろんのこと、実在の英雄とも関連しているのですよ。

 今は引退した南極観測船ふじ(7760トン)の旗は、南十字星旗と呼ばれ、南十字星がオレンジ色の線で結ばれているものでした。これは、日本人として史上初めて南極行きに挑んだ白瀬隊(開南丸204トン)が使用した旗と同じものでした。その旗は、白瀬聶(のぶ)中尉の生家がある秋田県由利郡金浦(このうら)町から、昭和54年第20次南極観測隊のために贈られたものだったのです。

 その他、御朱印船に乗って、南方貿易に挑んだ勇敢な日本人船乗りたちも、いくつもその観望談を残しています。4個の輝星で作られる十字形は誰にも強烈な印象を与えたのでしょうね。

 そのサザンクロスは、今が見頃です。特に下弦を過ぎた来週末、日本はもちろんオーストラリアでも月は夜半まで昇って来ないので、22時過ぎまで月明かりが無く、従ってバッチリ銀河も見え、天の川に浸る南十字も鮮やかに鑑賞できます。帆掛け船の帆型をした、からす座の南を探すのが一番です。1等星が3つ輝く十字形は見事! ……とはいえ、この十字形は、きっと思ったよりかなり小さい(88星座中で最小の星座です)ので、視線が南西に行き過ぎると、もっと大振りでそれらしい十字形の星の並び(にせ十字)と勘違いしてしまう恐れもあります。ご注意ください。

※4月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。


プロフィール:金井三男(かないみつお)さん

 もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。

 「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。