集まれ!星たち〜ひとつひとつは微かでも〜

あつぼし見上げて夜話

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第114夜「影が薄い彦星」(2013年8月30日号)



 28日が下弦で来月5日に新月になります。ですから、この一週間は宵空で月の邪魔が入らないので、思う存分スカイウォッチングや星空散歩を愉しめます。宵の西空には、宵の明星の金星や土星が惑星の代表として頑張ってくれています。特に土星は望遠鏡で愉しむのがお勧めです。もちろん見事な環を眺めることができるからです。100倍くらいに拡大してみるのがよいですね。

 また、街灯や街明かりが無い美しい星空の下では、これもまた思う存分天の川に浸ることができます。たびたび申し上げていることですが、いまでは都会ではまったく見ることのできない天の川も、半世紀ほど前には、街中でも普通に見ることができました。今から60年近く前、私は東京のど真ん中に住んでいましたが、そこでバッチリ天の川を見たという記憶があります。

 ところで銀河と言えば、牽牛織女ですね。ところが織女さんより前に呼ばれる牽牛(彦星)さんなのに、ちょっと影が薄いのです。前回に織女星・ベガのニックネームをたくさんご紹介しましたが、少なくとも私のコレクションには、わし座α星すなわちアルタイルには、ニックネームがありません。これは、はくちょう座α=デネブも同様で、夏の大三角(Summer Triangle)をつくる3つの1等星の中で、ベガがダントツの人気者なのですね。

 そこで、アルタイルを不憫に思った私は、ニックネームを創作してみました。その名は「クルクル星」。由来は、アルタイルが1等星の中で最初に高速自転が測定された星だからです。秒速219kmで一周する時間はたったの10時間。太陽の自転周期25日に比べて超高速です。このため、極方向より赤道方向が14%も膨らんでおり、中心からそれだけ遠いため、極点よりずっと低温になっています。

 どうでしょう、クルクル星。しかし、クルクル回っていることも、横に伸びてひしゃげていることも残念ながら目で確かめることができませんから、話にきいただけではあまり受けないかもしれませんね。でも、その「クルクルする」さまを想像しながら、実際のアルタイルを見てみると、とても身近に感じられてくるのが面白いところです。

※8月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。


プロフィール:金井三男(かないみつお)さん

 もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。

 「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。