集まれ!星たち〜ひとつひとつは微かでも〜

あつぼし見上げて夜話

目次

第121夜「UFO?」(2013年10月18日号)



 秋の深まりは、なんと言っても日の入り時刻の早まりで、身に染みます。そうです、東京などでは、夕方5時過ぎに、太陽が沈んでしまうようになりました。といっても、夕方に頭の真上近く、やや西側にはなりましたが、まだ牽牛織女とはくちょう座のデネブ(なぜか著名な日本語名がない)、が作る夏の大三角が健在です。秋なのに。。。

 ところで今年は春の5月はじめからずーと健在なものが西空にいます。年末どころか年を越してまでも、宵の西空に頑張っているはずです。UFO?

 いえいえ、宵の明星の金星です。わざわざ宵の・・・とお断りしたのは、年を越して来年早々には、明け方に見える「明けの明星」になるからです。誰もがそれを見るとギョッとするくらい明るく耀く、だから明星で金の星なのです。

 最近の人は、それが空からジーッと睨んでいる様に見えるので、UFOと確信し、天文台に電話するのですが、前世紀の中ごろまでは、そんなことは皆無でした。なぜなら、電話がなかったからではなく、誰もUFOという概念そのものを知らなかったからです。

 このように、思いこみというものは、時代を反映します。例えば、空海という有名なお坊さんは、四国の山中で修行中、突然自分の体内に明けの明星が飛び込んでくるのを感じたそうです。表面温度が400度以上もある金星ですから、さぞかし熱かったでしょうね。

 同じくある日、金星が懐に入る夢を見たお母さんから生まれたので、太白という名前をもらった李太白(唐の詩人)と言う人もいます。さらにはまた、お釈迦様は雪山で金星を見て道を知ったそうで、そのため、金星は明星天子として神様扱いになったそうです。虚空菩薩様の化身ともされています。

 何を信じても結構ですが、金星は金星、つまり天体です。宵の明星と明けの明星が同じ金星だ!と科学的に見破ったのは、他ならぬギリシャ時代の有名な数学者ピタゴラスです。「UFOだー!」とすぐに騒ぐ前に、少なくとも天体だけは、数学的・科学的・天文学的に見る心がけを大切にして欲しいものです。

※10月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。


プロフィール:金井三男(かないみつお)さん

 もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。

 「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。