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あつぼし見上げて夜話

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第178夜「さそり座は今見えません。」(2014年11月21日号)



 プラネタリウムに親子連れでおいでになったお子さんから、「どうしてさそり座見せてくれなかったの?」と訊かれる場合があります。だいたい今頃の話です。私の答「だって、今の季節は見えないのですよ」。まったく満足しないという風に「ふうーん」ならまだ良い方で、「今度来たら絶対見せてよ!」と、無理を言うお子さんも多いのです。

 「いつ来たらいいの?」と聞かれれば、だいたいお誕生星座を見たければ、その4か月前くらいに来るのがベストと答えるのですが、うっかり年周運動で太陽が毎年この季節、さそり座にいるのですと小難しく説明すると「そんなことはどうでもいいよ」といわれてしまいます(苦笑)。

 第一、日本にはさそりが動物園以外にいないのに、何でさそり座なんでしょうね。これだけの事実でも、日本では占星術は通用しないと申し上げても引き下がってもらえません。

 なので、最近は(と申し上げても現在老年の私は現役を引退し、カルチャーセンターで壮年の皆さんにお話しているのですが)「火星のプラネタリウムでもさそり座は見えるけれど、サソリはいません。あれば地球の昔の話です」とケムにまくことにしています。
そればかりでなく、もっと深刻な話があります。軌道傾斜の関係で火星では黄道十二星座にへびつかい(蛇遣い)とくじら(鯨)とぎょしゃ(馭者)が加わります。また、暦も時制も問題です。火星の1日は24時間37分ですし、1年は地球の1年8か月ですから。いかなる取り決めも成されていません。

 現代の地球では、毎年9月から11月がさそり座のシーズンオフで、黄道十二星座はぞのどれもが、毎年同時期にシーズンオフになります。さそり座に太陽がやってくる頃が、アラビアでは乾燥した時期(だから蠍)になり、みずがめ座やうお座にやってくる季節が、農耕に大切なこの時しか降らない雨季になったことに基づいているのです。他の十二星座も同様で、日本とは全く無関係な話なのです。

 蠍は日本にいない、半人半馬の射手もどこにもいない…さて、どうしましょう。

※11月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。


プロフィール:金井三男(かないみつお)さん

 もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。

 「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。