第99夜「夫婦星を見よう」(2013年5月17日号)
たびたびお話することですが、日本語の「星(ほし)」は、「ほいし(火石)」や「ほしろ(火白)」を語源とするという説があります。正しいかどうか別として、赤い火と白い石との合成語とは良くできた説ですね。
今頃の宵空(20時頃)東空に二つの1等星が上っています。さらに南東空低くに、二つの1等星とはやや色が異なる星が上っています。惑星の土星です。前の二星は惑星ではなく恒星です。北側のオレンジ色の星は、うしかい座のアルクトゥルス、南側の白い星はおとめ座のスピカです。
アルクトゥルスは、日本では麦色に見えることから「麦星」と呼ばれています。夕方頭上高くに見えるのが6~7月、ちょうど麦の刈り入れ時期。明け方よく見えるのは1~2月で麦の播種期なので、この名があるわけです。スピカは、その色から「真珠星」と呼ばれています。きれいな真っ白の星ですよ。おとめ座の輝星にふさわしい名前ですね。さらに、二つ合わせて「夫婦(めおと)星」という名前もあって、これもいいですね。もちろん旦那さんが麦星で、奥さんが真珠星でしょう。それにしては、ずいぶんと離ればなれ。およそ33度も離れていますから、じつは仲が悪いのでしょうか……。
ところが今から5万5500年後には、両星は2度を切るほどまでに接近します。なので、その頃の人々は、自然と二つの星が仲の良い夫婦に見えることでしょう。これは、見かけ上、奥さんの方はたいして動かないのに対して、旦那さんの方が韋駄天のように駆け寄るからです。
ですが、旦那さんは勢い余ってそのまま奥さんの脇を通り過ぎ、やがて銀河系を飛び抜けていきます。アルクトゥルスは、現在、銀河系円盤を垂直に突き抜けつつあるのです。なんとそのスピードは秒速122km。超高速度の星なのです。それに引き替え、奥さんの方はそれほどの高速ではなく、かつ旦那さんより8倍ほど太陽から遠いため、見かけ上の動きはゆっくりなのです。5万5500年後の未来を想像して二つの星を見るのも面白いものです。
※5月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。
プロフィール:金井三男(かないみつお)さん
もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。
「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。