集まれ!星たち〜ひとつひとつは微かでも〜

あつぼし見上げて夜話

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第53夜「麦星ってご存じですか」(2012年6月29日号)



 織姫星は有名ですが、それと同じくらい明るい麦星をご存じの方はほとんどおられません。ましてや、外国語のアルクトウルスはほとんど誰も知らないと言うほどです。だからでしょうか、織姫星の外国名ヴェガ(ベガ)に対して、アークチュラス、アルクトゥールスなどなど、なんと十種類もの日本語での書き方があるのです。「ギョエテとは俺のことかとゲーテ言い」という川柳が思い出されます。
 私は、アルクトウルスという書き方を採用していますが、アルク(番人)+ウルス(熊)、すなわちその前を行く大熊を後から追っているという意味の言葉だからです。

 ところでその大熊の尻尾が、有名な北斗七星ですね。日本では柄杓に見ますが、英語では大きな匙(Big Dipper)という呼び名の他に、チャールズの車(Charles’ Wain)とも呼ばれています。

 イギリスの辞書オックスフォード大辞典には、アルクトウルス(Arcturus)がアルトゥルス(Arturus:英語のアーサーに当たるラテン語の人名)と混同されて、英語のアーサー(Arthur)、すなわち5世紀イギリスの伝説的王様アーサー王の名前になり、アーサー王と9世紀西ローマ帝国皇帝カール(英語でチャールズ)大帝に混同されて、「北斗の車」が「アーサーの車」に、そして「チャールズの車」に変化したらしいという記事があります。

 お話を戻すと、アルクトウルスの日本名の麦星についてもウンチク話があります。色が麦色に見えることも理由ですが、この星が夕方西の空に輝き始める頃(これからの季節)、日本では小麦の収穫期が始まります。農家の皆さんは、この星が夕空に一番星になることを目安にしていたのですね。

 実は織姫星よりほんのちょっと明るく、また夕焼けが納まった宵空で、麦色は白い織姫星より目立ちやすいこともあるようです。もうちょっと有名になっても良い星ですね。

※6月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。


プロフィール:金井三男(かないみつお)さん

 もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。

 「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。