集まれ!星たち〜ひとつひとつは微かでも〜

あつぼし見上げて夜話

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第212夜「赤い目玉のサソリ②」(2015年7月17日号)



 台風11号が四国・中国地方を縦断しています。被害がでないことを祈るだけですが、台風が去った後は、夏の星空が広がるかもしれません。

 第5夜と第106夜でアンタレスを取り上げましたが、もう一度個この星を語らせていただこうと思います。16日が新月だったので、ここ数晩は月明かりの邪魔がなく、うまくすれば肉眼でやっと見ることができるような暗い星も愉しむことができるからです。もちろん赤い目玉の一等星アンタレスは、ラクチンで愉しめます。

 ところが、今から2000年くらい前の天文学者エラトステネスさんによれば、当時さそり座でもっとも明るい星は現在は2.6等のさそり座βだったそうです。つまり「ラクチン」じゃなかった。同じくプトレマイオスさんは、β星とアンタレスが同じ明るさだと言いました。今では、β星とは比べものにならないほどアンタレスが明るいので、どうやらアンタレスは最近になって急速に明るくなったらしいのです。

 実はこの星は老齢の星で、なんと太陽直径の約700倍という巨大な星(赤色超巨星といいます)に膨れ上がり、それに伴って明るくなったと考えられています。そればかりでなく、この星の周囲には望遠鏡で熟練の観測者が見ると認めることができるガス星雲があって、アンタレスからの光を反射させています。もしかするとこのガスは、アンタレスから吹き出されたものかも知れません。

 おまけにこの星は、地球から見て全てが90度以内に収まる巨大な星の群れとして知られるさそり・ケンタウルス・アソシエーション(100以上の星が所属)の中で、最重・最輝・最速進化の星と見られています。アンタレス以外は大方若く、熱く、明るい星なのです。その拡張運動から判定すると、すべて同時に今から2000万年前以内に、ほぼ球形の領域内で生まれたものらしく、さらにオリオン座のベテルギウスとその赤色超巨星ぶりで1,2を争いながら、超新星爆発に向かっているとも言われています。

 今は静かに輝いていますが、近いうちにとんでもないことを起こす可能性があるかもしれません。宇宙って、大方のみなさんが考えておられる以上にダイナミックで面白いものなのですよ。

※7月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。


プロフィール:金井三男(かないみつお)さん

 もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。

 「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。