集まれ!星たち〜ひとつひとつは微かでも〜

あつぼし見上げて夜話

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第231夜「ユニバーサルとグローバル」(2015年11月27日号)



 今から1335年前の860年11月27日正午直前に、奈良地方で食分0.86の相当な日食が起こりました。金環とか皆既とかの誰もが目を見張るような日食ではありませんが、天文学者は多分注目していたでしょう。

 当時は予報精度がイマイチでしたから、学者達は予報通り起こるか否か、はらはらとしていたのではないでしょうか。でも結局当時の考え方として、日食=凶事の予兆とされ、翌々日(29日)20~24時に東の夜空が明るかったことと合わせられ、12月28日の皇后発病と関連付けられました。またこれにより、薬師寺が興建されたそうです。お寺さんの建立はともかく、いまの感覚では、こじつけとしか思えませんが、もちろん現代のように医学は発達していませんでしたから、病因もなにも不明でたたりとしか思えなかったのでしょう。

 それから約1000年後の1872年11月27日には、欧州でとんでもないものが飛びました。現代ではアンドロメダ座流星群(本体は既に活動停止)と呼ばれるビエラ流星群でした。夕方が最盛期で1時間あたり数千、1000年前に奈良の人が見たら、びっくり仰天したことでしょうね。ただし、活動は急速に衰え、夜半にはもう数個しか飛ばなかったそうですから、奈良にいた限りでは見られなかったでしょう。

 この流星群には後日談があり、プラハ天文台のワイネックという学者が同流星群を世界で初めて写真に撮影し、後に日本で首相となった原敬さんが留学で渡航中、船上から同流星群を観察したそうです。ただし、この時をもって同流星群は終わり、メキシコで同流星群の母彗星ビエラの片割れとして重さ10ポンド強の鉄隕石が落下しました。

 どちらにしても、天文や地球の現象は宇宙的・世界的現象であり、ちまちまとある特定地域だけのものではないことが明瞭です。どうぞみなさん、こういった広い視野に立ったものの見方を、ぜひ心がけてくださいね。

※11月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。


プロフィール:金井三男(かないみつお)さん

 もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。

 「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。