集まれ!星たち〜ひとつひとつは微かでも〜

あつぼし見上げて夜話

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第26夜「地平線に立つ十字架」(2011年12月23日号)



 昨22日が冬至でした。これから昼の時間が少しずつ長くなっていきます。とはいえ、冬至の日に日没の時刻がもっとも早く、日の出の時刻がもっとも遅い、というわけでないことは、前25夜で述べました。13日の日没が仙台周辺で16時20分過ぎですが、実はこれでも一番日没が早かった今月6日頃より5分近く遅くなってきたのですよ。

 さて、日没直後、夕焼け空の中に金星がポツンと光っています。マイナス3.9等ですから、金星としては最も暗い時期(!)ですが、それでも宵空にいる金星は美の女神ヴィーナスにふさわしい輝きを見せてくれます。

 時計の針が19時半を回る頃、その金星はとっくに西空に沈んでおり、夏の星のひとつ、彦星が地平線近くに見えています。七夕の主役がまだ見えているのですね。もう一方の織姫も高度10度を切り、年末年始のお休みになりかかる頃、後七夕(あとたなばた)と呼ばれるはくちょう座の1等星デネブが、高度30度ほどのところで七夕二星を見下ろしています。

 七夕二星のほぼ真ん中にある、はくちょう座のやや暗めの2等星アルビレオを脚にし、デネブを頭にして、はくちょう座全体を十字架に見て、欧米ではノーザンクロス(北十字)という名前が有名です。あの宮沢賢治さんの名作『銀河鉄道の夜』の列車の出発駅でもあります。そして、その終着駅も同じ十字架形のみなみじゅうじ座。

 日本やキリストの誕生地ベトレヘムでは現在は見ることができませんが、キリストが生まれた頃、関東以南やベトレヘムでは全体が、東北地方でも南十字の北半分が、南の地平線上に見えていました。歳差という地球の運動によるものです。その頃、賢治さんが生きておられたら、鉄道の出発駅から終着駅まで、全部の経路(すなわち天の川)をきっと眺めていたでしょう。

 クリスマスの夜、みなさんも北西の空にやや斜めに立つ十字架をご覧ください。クリスチャンでなくても不思議な気分になるといわれています。今年は特に一晩中月がないので、印象深いクリスマスの夜になることでしょう。

※12月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。


プロフィール:金井三男(かないみつお)さん

 もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。

 「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。