第56夜「おはよう!カペラ君」(2012年7月20日号)
日本列島の多くの地域では梅雨も明けて、いよいよ夏の到来です。しかし、暑いですね。学校は夏休みにもなりますし、大人も子供も海や山に行くシーズン開始。そんなとき、ちょっと星空を見ようかな、というチャンスも増えるでしょう。19日に新月になり、今週から来週にかけては夕方だけ月におつきあいで、夜半から明け方には真っ暗な星空が望めます。
そんな中、明日の予定に差し支えがないなら、明け方まで星とお話するのはいかがですか。なにしろ午前2時前の東北東の空に、太陽系ナンバーワンとナンバーツーの明るさを誇る2個の惑星、つまり金星と木星とが縦に並んで昇ってくるからです。2惑星のすぐそばには、おうし座の赤っぽい1等星アルデバラン(太陽から約65光年)がお供しています。そうなんです、晩秋の宵空を飾る星たちが、もう明け方に顔を見せ始めているのですね。
その1つ、ぎょしゃ座のカペラ(雌山羊という意味)も北東の空に昇っています。カペラはアルデバランより赤みが弱く、黄色と言って良い星で、天文学的にはスペクトル型Gという太陽とよく似た温度の星です。ただし、巨星の仲間で、太陽よりずっと大きなサイズ(約10倍)の星です。このため、明るさも太陽の約70倍もあります。
恒星のことを英語でStarというのは、どなたもご存じでしょうが、駅Stationや滞在するStayと語源を同じにしています。つまり、人間の一生くらいの時間では場所を変えないという意味からですが、実は長い年月で恒星自身も運動しているので場所を変えます。
カペラは今から40万年以上前にアルデバランの脇をかすめ、24万年前に太陽に18光年まで近づきました。現在は約42光年離れています。つまり、恒星は円い天井に張り付いているわけでなく、独自に運動しています。実は私たちの太陽も、おおよそ織姫星(ベガ)の方向に、秒速20km(弾丸の20倍)ほどのスピードで飛んでいるのです。
※7月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。
プロフィール:金井三男(かないみつお)さん
もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。
「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。