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あつぼし見上げて夜話

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第127夜「アイソン彗星」(2013年11月29日号)



 アイソン彗星、天文ファンとしては、残念な結果に終わってしまったようです。太陽に最接近する前に、どうやら核が崩壊してしまったとのニュースが流れています。みなさんも報道でご存知のとおり、アイソン彗星は「サングレイザー」と言って、太陽のすぐそばを通過する(中には太陽に突っ込んでしまうものもあります)彗星のタイプの一つです。

 彗星が極端に太陽に接近すれば、当然のことながら岩と氷の核は割れたり千切れたりで、中から塵やガスが大量に噴出し、それが太陽光によって明るく照らされ、また太陽から吹き出す電磁粒子で吹き飛ばされて、大彗星特有の明るいコマと長い尾が見られるようになります。

 アイソン彗星の場合は、太陽表面からわずか117万kmを、本日11月29日の未明に通過したのでした。

 去年9月の発見直後には、まだ遠距離にあったにもかかわらず明るくて、すでに大彗星の片鱗を見せていました。今年初めには一時予想していたほどに明るくならず、天文ファンを落胆させかかりましたが、普通の彗星よりは早めに、木星軌道の内側に入ったばかりの時点(太陽から7億6000万kmほど)で、尾が6万4400kmも伸びていることが探査衛星によって確認され、ほっと一安心でした。ちなみに地球太陽間1億5000万km、地球月間38万kmちょっとですね。

 無事に太陽の近くを通り過ぎれば、12月上旬に地球に接近してくるので、しばらくは明け方の空に長い尾を伸ばす大彗星として観察できるか可能性も高かったので、たいへん残念です。とはいえ、その予測が覆されたところに、科学する心の源となる「なぜ?」が生まれるのです。今後の研究に注目したいと思います。

※11月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。


プロフィール:金井三男(かないみつお)さん

 もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。

 「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。