第173夜「ファイアーボール」(2014年10月17日号)
毎日毎晩、天空では様々な天文現象が起こっています。もっとも地球が球形なので、太陽が光っている側に日本があるときに現象が起これば見えません。しかし、夜側の日本から見ることができる範囲に起こる現象なら、もちろんよく見えます。おちおち眠ることも出来ません。
おちおちと言えば、もちろん駄洒落です、西暦764年(天平宝字八年九月十八日)の夜、大きな火の玉が落ちたのが目撃されました。日本書紀と呼ばれる有名な古文書に、「恵美押勝の乱が起きたその日、その屋敷に甕のような大きさの星が落ちた」と記されました。反乱の主謀者の家の上に火の玉が落ち、それも当日にということですから、とても偶然とは思えず、みなさんびっくりしたのでしょうね。
落ちたのは昼間だったかも知れませんが、この日の日没は17時1分、満月過ぎの月(月齢17)が東北東の空に上ってきたのが18時17分、空が真っ暗になる前に月明かりがありましたから、流れ星というより火球(明るいものなら大火球)、英語ならとても判りやすくファイアーボール(対して流れ星はミーチャー)と呼ばれています。
どちらからどちらに飛んだとか、痕を残したとか、色はどうだったとかのデータはありませんから、現代に出現する流星群のどれに所属するのか、などといった判定はできませんが、可能性としては今年なら11月18日未明にピークになると予測される「しし座流星群」があります。
実際855年10月17日にバグダッドで目撃された流星群は、しし群ではないかと言われています。その後も902年10月14日同じバグダッドで星の年と命名されるほどのしし群が、931年10月15日には中国最古、964年10月14日には日本最古、967年10月19日と1002年10月20日には日本で、そして1202年10月18日にはロシア最古のしし群出現が記録されています。
極大日が変化するのは、微粒子を供給するしし群の母彗星であるテンペル彗星の軌道が変化したことが主因です。
形の変わらぬ星座たちが静かに動いていく星空の世界だからこそ、天を切り裂くファイアーボールの出現は、人々にとても強い印象を与えるのでしょうね。
※10月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。
プロフィール:金井三男(かないみつお)さん
もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。
「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。