第36夜「火星に注目」(2012年3月2日号)
一昨日は、東京では大雪になりました。でも、関東地方でまとまった雪が降ると、春はもうすぐです。
2日夕方、やや太り気味の月が狩人オリオンの棍棒の近くにいます。天頂付近のその月を囲んで、西におうし座のアルデバラン、北にぎょしゃ座のカペラ、東にふたご座のカストルとポルックス、東南東にこいぬ座のプロキオン、南南東におおいぬ座のシリウス、南南西にオリオン座のリゲルと、明るい星たちで○が書けます。これを英語でウィンター・サークルといい、六角形でウィンター・ヘキサゴンともいいます。たいへん大きな形ですよ。
西空低く、金星と木星が明るさを競い合い、東空にはひっそりと火星が上ってきました。ひっそりと、と言いましたが、色は真っ赤で派手です。火の星とは良く言ったものです。3月6日0時が2年ぶりの地球最接近なので、今頃が一番明るい(-1等)のです。
昔からこの赤色は、血の色をイメージしたのでしょうか、世界各国で戦争の神様に見立てられていました。でも、そればかりではありません。
1938年10月30日20時(米国東部標準時) 米国のコロンビア放送、「オーソン・ウェルズとマーキュリー放送劇場」という番組でSF小説「宇宙戦争」が放送されました。ニュージャージー州プリンストン付近に、火星人が10人以上現れ、周囲200mを殺人光線で焼き払い、死者1500人以上と伝えたのです。戦車に乗ってニューヨークに向かって進軍中としました。「これはドラマです」とアナウンサーが繰り返しましたが、時すでに遅く、大騒ぎになりました。
ある調査では、聴取者数600万人で、120万人が実際に信じて行動したそうです。同様の放送がなぜか、1949年エクアドルのキトーであり、ドラマと知った聴取者が怒って放送局を襲う事件も起きました。なので、現在この台本はCBSの金庫に厳重にしまい込まれ、持ち出し禁止になっているそうです。
現代の皆さんは、多数の火星探査機で火星には高等な生物がいないことをご存じでしょうが、人の噂というのは怖いですね。
※3月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。
プロフィール:金井三男(かないみつお)さん
もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。
「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。