第63夜「真上にデネブが」(2012年9月7日号)
夜の9時頃には、頭の真上にはくちょう座を代表する白い1等星デネブがいます。真上と言っても、東京では真上から約10度北を通過し、北に行くほど真上に近づきます。ほぼ真上を通過するのは北海道の稚内市です。
デネブは尾という意味です。ヴェガとかアルタイルとかアンタレスとか、全天でただ一つしかない名まえと異なり、デネブは、じつに9個の星座の星にその名があります。でも1等星は、はくちょう座のデネブだけなので、デネブと言えば、普通はこのデネブを指します。
はくちょう座のデネブは注目されるべき星です。なぜなら、百万年ほどで超新星爆発すると予想されているからです。21個の1等星の内、1万年以内に爆発しそうなベテルギウス、10万年ほどで爆発するだろうアンタレス、それに次ぐものです。これら二星ほどの規模ではありませんが、若干変光もしています。
そのサイズは相当なもので、太陽の180倍もあります。彦星(アルタイル)より100~200倍くらいも遠くに位置し、約100倍大きく、重さも10倍以上あり、太陽の20~25倍にもなります。そのためか、非常に不安定な状態になっており、言ってみればお鍋の中のカレーがグツグツ煮え始めたといったところでしょうか。
その表面温度は8400度ほどで、太陽に較べて2500~3000度は高い状態です。恒星物理学によれば、もっと高温のオリオン座のリゲル(11000度)のような青白い星が、およそ1万年間にベテルギウスのような3000度そこそこの低温になるとされ、デネブはその中間状態にあるそうです。
重い星なので、超新星爆発を起こすと、間違いなくブラックホールになります。またその瞬間には生命体に有害なX線やγ線も放出されますが、ベテルギウスなどに較べて3~5倍も遠方なので少しは安心できます。
晩秋から初春にかけてはベテルギウスを、晩春から初秋にかけてはアンタレスを、初夏から初冬にかけてはデネブを、晴れた夜空でどうぞご注意ください!
※9月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。
プロフィール:金井三男(かないみつお)さん
もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。
「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。