第108夜「月夜に輝く宵の明星」(2013年7月19日号)
そろそろ夏休みが近くなりました。東北地方は梅雨前線の活動が活発でたいへんですが、東日本以西は晴れが続いています。星もよく見えていることでしょうが、23日が満月なので、月明かりでだんだん明るい星しか見えなくなってきています。
月に次いで明るい金星が、宵の明星として日没後の一番星になりますが、今は太陽の向こう側にいるので距離が遠く、それほど明るく見えていません。まだ、マイナス4等を下回っていて、金星としては暗い状態です。とはいえ、一番星にふさわしい明るさで夏の宵空に輝いています。今年は年末までずっと、西から南西の空低く日没後に見えていて、師走頃に最も明るく(マイナス4.6等)輝きますので、これから半年近く金星の輝きを楽しむことができます。
金星は厚い雲に覆われていて、成分は硫酸や二酸化炭素です。その雲のおかげて金星は明るく輝くわけですが、逆に表面の地形のようすは望遠鏡を使ってもまったく見えません。だから、火星や木星のようにアマチュアの(表面)観測対象ではありません。しかし、観測衛星などによる研究によると、金星は、逆立ちして公転(自転が公転とは逆向き)している珍しい惑星なのが分かっています。太陽系の惑星の中では、横倒しの天王星と並んでヘンテコな天体のひとつです。
それに引き替え、我が地球はちょうど良い具合に傾いていて幸運ですね。なぜって、だからこそちょうど良い具合に四季変化が起こるからです。もし皆さんが金星に行くことができたら(厚い雲に覆われて星空を見ることはできませんが)、金星では(地球時間で見ると)、今年6月末から8月下旬までと、10月下旬から12月下旬まで、そして来年2月中旬から4月中旬までは、ずっと昼です。この間、太陽は地平線下に沈みません。さらに奇妙なことに、毎日西から東へ少しずつ動いていくようすが眺められます。
ですが、今から15億年後以降の地球では、現在よりもはるかに月が離れていくので、地球の自転がカオス的、つまりメチャクチャな運動に陥るはずです。地球が安定して自転していられるのは、月が寄り添ってくれているから。そう思うと「星空を見るのに月明かりがじゃまだな~」と、文句はいえませんよね。
※7月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。
プロフィール:金井三男(かないみつお)さん
もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。
「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。