第110夜「おもしろい月の振る舞い」(2013年8月2日号)
木星には67個も月があるけれど、地球の月は何個ですか? と子どもたちに質問をしたことがあります。すると、4個あるよ! と答がありました。新月でしょ、三日月でしょ、半月でしょ、満月だよ! というものでした。「あぁ、そうか」とはもちろん思いません。日光の当たり方が違うんだと答えておきましたが、子どもは毎晩違う月が登場すると思っているんだと実感しました。
もちろん、おもしろい月の振る舞いはそういった見た目の満ち欠けだけではなく、日月食を起こしたり、自転軸の首振り運動で模様が毎晩少しずつずれて見える(秤動という)ことや、距離が微妙に変化して、見かけの大きさがほんの少し変化することなどなど、何通りもあるのですが、今月の話題は、なんと言っても12日の夕方に起こる、月がおとめ座の1等星スピカを食する(星食という)ことでしょう。
食すると言っても、もちろん食べてしまうわけではなく(だって月まで38万kmしかないのにスピカまで2500兆kmもあるわけですから)、ただスピカが、見かけ上、月に覆い隠されるということです。夕方、まだかなり明るい南西の空で、月面の日光が当たっていない側にパッと隠され、やがて空が暗くなると共に月の明るい側から突然出現するという、星食ならではの光景が繰り広げられ、相手は真珠星とも呼ばれる美しい1等星ですから、格別の趣きがあります。
起こる時刻は、観測場所によって異なるので、事前によく調べておく必要があります。秋田県や岩手県の中部以北では、月がスピカの南を通過してしまい、空振りです。しかし、両県の南部では限界線星食と言って、月の北縁の山や谷に見え隠れするという離れ業が演じられますので、興味津々の天文現象になります。面白いですよ。ただ面白いだけでなく、それは月地形の測量にもなります。望遠鏡で観測したいところですね。
そして、その月は、翌日や翌々日の未明にはもう沈んでいて、もうひとつの夏の見物のひとつペルセウス座流星群の観測の邪魔をしなくなるのも、絶妙です。
※8月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。
プロフィール:金井三男(かないみつお)さん
もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。
「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。