第111夜「織り姫さまがハチマキを」(2013年8月9日号)
9日夕方には宵の明星金星が西空に輝き、その下に三日月がいますが、宵の口の19時半過ぎには早々と沈んでしまいます。その後30分も経つと、まっ暗な空になり、真上近くに織り姫星が、沈む直前の金星とバトンタッチするように輝いています。
月は日ごとに太っていき、13日にほぼ上弦の月となり、南西の空に移っています。その日が本当の七夕の日です。つまり、旧暦七夕の晩の月は必ず上弦なのです。国立天文台のみなさんが、近年「伝統的七夕」という名前で普及活動をされていますので、ご存じの方も多いことと思います。
もう2000年近く前から東アジアの人々の心を捉えて来ましたが、最近の天文学の発展はめざましく、様々な事柄が分かってきました。その結果、話の一部を変更する必要が出てきました。みなさんの夢を壊すことになるかも知れないことを心からお詫びします。
まず、その1。彦星様は、これからどんどん織り姫様から離れていきます。今から30万年ほど前は、天の川の真ん中近くで、今よりずっと近くにいたのですが、その後離れ始め、これから彦星様はどんどん北西へ、織り姫さまはゆっくりと北東へ移動していきます。数十万年後には実に180度、つまり地球や太陽を挟んで反対側に移動します。
その2。折り姫様のお父様、つまり天帝の北極星の代わりに、今から約1万5000年後、織り姫様が北極星になります。これは、星の運動が原因ではなく、地球の自転軸の首振り運動のためです。
その3。昨年末、スーというアメリカの天文学者らが、2つの宇宙望遠鏡を使用してこの星を観測した結果、織り姫様が太い塵のハチマキをしていることが分かりました。これらは惑星の素になるものですが、2本の間には既に惑星ができているかも知れません。そして、その惑星が、もとの塵を掃除しているとも考えられています。
いかがですか。七夕の物語は人の豊かなイマジネーションが生み出したものですが、科学の知見もまた、なかなかに面白いものです。その両方に心を通じれば、たとえ180度離れたとしても、織姫と彦星の思いは永遠のものと感じることができるのかもしれませんね。
※8月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。
プロフィール:金井三男(かないみつお)さん
もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。
「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。