第120夜「火星とレグルスとの出会い」(2013年10月11日号)
野生に暮らす動物とは違って、私たち人類は、人との出会い(邂逅:かいこう)を大事にしなければなりません。ちょっと意味が違いますが、打ち合わせなどの会合も大事にするべきものです。
数個の惑星や、惑星と恒星の会合は、今の天文学では大して重視されませんが、面白くて珍しいことに代わりはありません。15日火曜日の明け方、早起きして東の空を御覧ください。できれば午前3時には起床して、外に出て見ましょう。
すると、東の中天に輝く木星のずうっと右下に、まるで寄り添うように赤い星とクリーム色がかった白い星が見えるはずです。白い星の方がやや明るい(1.3等)のしし座のレグルス、赤いのが火星(1.6等)です。
その星たちを指さした人指し指一本で、二つとも隠れてしまうでしょう。それくらい接近しています。できれば毎朝見続けると、それが段々離れていくことも観察できますよ。もちろん惑星である火星が星空の中を運動して離れていくのですが。
ところで、惑星の運動と言えば、地球も惑星の一つ。それが動くのだ、すなわち地動説が正しいのだと、今から470年前に言ったことで有名なコペルニクスは、実はレグルスの命名者(実際は最初に本にその名前を書いただけですが)としても有名なのです。
レグルスというラテン語名の意味は、小さな王様(レックス=王)で、これはギリシャ語のバシリコス(小さな王様)、ローマ語のステラ・レギア(王家の星)と同じものです。レグルス(レックス)がレクタングル(長方形)から来ているとも言われています。いずれも古くはシュメール民族やバビロニア起源の古い言葉が語源だそうです。
ただ現在は、火星が比較的遠距離にあるため普段より暗くて、猛々しい英語名マーズ(戦争の神様)の名前に不釣り合いで、小さな王様に負けています。このように、星の名前にこだわってみると、文化や歴史にもつながっていて、結構面白いものですよ。
※10月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。
プロフィール:金井三男(かないみつお)さん
もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。
「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。