第148夜「時代は変わりました」(2014年4月25日号)
夜中の0時頃、視線を真上に向けると、オレンジ色の輝星が見えます。うしかい座のアルクトウルスです。独特な色を呈しているので、すぐ判ります。この星は、たまたま現在、銀河系の円盤を縦方向に秒速122kmの高速で横切っている高速度星と呼ばれる一群の星たちのひとつです。数億年前に銀河系に食べられたちっぽけな別の銀河に属する星だったようです。今はやりの銀河カニバリズム(食人種)の一例です。だから、私たちとは別の祖先の持ち主ということになります。太陽や、地球を含めた太陽系の惑星たち、たとえば火星や土星などとは別の出自の星ですね。
そんな火星と土星は、0時頃南西と南東に見えています。正三角や二等辺三角ではありませんが、アルクトウルスと綺麗な三角形を作っていますね。
その内の一星、土星はもちろん環で有名で、この星を望遠鏡で見ると、あなたは年齢には無関係に、いっぺんに天文少年か天文少女になります。そして、眼は少年か少女のようになります。ガリレオ・ガリレイが土星に耳があると言ってビックリしたことが、あなたも体験できます。ただし、2025年に土星を見れば、ガリレオ同様腰を抜かして、その後絶対に土星を見なくなるかも知れません。環が消えるからです。もちろん本当に環が消失する訳ではなく、太陽が環を真横から照らしたり、地球から見てごくごく薄い環を見ることができなくなるからです。
でも時代は変わり、今はカッシニという探査機が土星を公転し、土星について詳しい観測が行われています。昨秋、土星の向こう側つまり太陽や地球の反対側から、日光を赤外線で透かした土星環の写真が公開されました。それによれば、内側からDCBAFGEと7本の環が並んでいますが、地球側からは幅広で明るく見えるB環がほとんど赤外線を透過せず、細くてほとんど見えないDFGEの4環は、裏側から透かした霧のように明るく見えています。一昨年秋、太陽圏を人類史上初めて脱出したボイジャー1号同様、時代の変化は急ですね。だから宇宙はいつも面白いのです。
※4月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。
プロフィール:金井三男(かないみつお)さん
もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。
「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。