第145夜「ネロネウスという月をご存じですか?」(2014年4月4日号)
4月に入り、いよいよ春めいてきました。オリオン座などの冬の星座は、宵の口に西空に低くなり、東空に北斗七星やしし座、少し遅くなると、うしかい座やおとめ座などの春の星座が主役になり始めて来ました。
冬の星座中にいる木星は、恒星で最も明るいシリウスより輝き、宵空に金星がいない今は見事な一番星です。おとめ座のスピカ近傍にいる火星は現在地球に接近中のため、シリウスとほぼ同じ明るさで輝いていますが、色は全く異なり、いかにも火の星です。
突然ですが、西暦前45年4月5日のローマの夜空で、火星が月に見事に隠されるという出来事がありました。シーザーの妻として有名なクレオパトラが女王として統治していたエジプトでも、この月による火星食が見えたはずですが、夜中過ぎの出来事だったので、また天候も判らないので、果たして見たでしょうか。
シーザーが生まれたのは西暦前100年の7月でした。なので、ローマ元老院はおべっかのために、クインティリウス(第五月)と呼んでいた現在の7月をユリウス(英語でジュライ)と改称することを提案しました。当時メチャクチャだった暦を、45年1月から制定し直し、1年を365日1/4としたため、新しい暦はユリウス暦と呼ばれました。西暦1582年にグレゴリオ暦が採用されるまでは、最も正確な太陽暦だったものです。
だから、7月がジュライという月名で今でも呼ばれているわけです。また8月のオーガストも初代ローマ皇帝アウグスツス(オクタヴィアヌス)の誕生日に因むものです。第二代皇帝ティベリウスは、元老院が9月をティベリウスと呼ぶことを提案しましたが、皇帝が13人になったらどうするのだ? と拒否したそうです。ですが、第三代カリグラは本名のゲルマニクスを9月に、第五代ネロはネロネウスを4月に、第九代ドミティアヌスは10月をドミティアヌスと呼ばせました。3人はいずれも暴君として知られ、死後直ちに元に戻されたそうです。
※4月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。
プロフィール:金井三男(かないみつお)さん
もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。
「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。