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あつぼし見上げて夜話

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第160夜「天の川を引っ張る釣り針」(2014年7月18日号)



 159夜では、ちょっと強引に作った夏の大曲線をご紹介しました。今回は、ごく自然に誰もがそうお思いになるに違いない「サソリ」と「釣り針」をご紹介します。というより、どちらもみなさんよくご存じのさそり座のことです。

 でも日本の大部分で生息していないサソリを、みなさんどうしてご存じなのでしょう。そしてすぐイメージすることが出来るのでしょうか。図鑑や動物園でお目にかかった方も多いことでしょうが、私はオリオンをやっつけた毒サソリの話を語る星座神話書の挿絵で初めて出会いました。だから、特に私には、その毒針の印象が強烈なのです。

 ところで、このサソリはバビロニア(現在のイラク)のシンボルだそうです。ですが、星座的にはもっと面白いことがあります。東隣には狼を槍で突き殺すケンタウルス、西隣には弓矢を射る射手(名前はケイロン)、共に半人半馬がいて、共にサソリを狙っていることがミソです。

 実は、バビロニアを狙う騎馬民族国家アッシリアとの戦いを意味しているという見方があるのです。バビロニアの人々は、馬がいなかったため、馬に乗ることが出来ませんでした。なので、すぐ負けてしまい、乗馬したアッシリア軍が北の地平線に現れると、遠くから見ると人と馬が合体して見えたのでしょう。

 さて、そんなことなどつゆ知らず、もちろん経験したこともない海洋民族の人々は、当然ながらサソリとは見ず、すぐ身近にあった釣り針に見立てました。それが我が国にも伝えられ、各地で魚釣り星とか鯛釣り星などと呼ばれたのです。

 今晩21時頃には月明かりもなく、光害溢れる大都会でなければ、天の川がくっきりと見えるはず。なので、南の空に天の川を引っ張るその釣り針が、きらきらと見えるはずです。できれば双眼鏡で、そのS字形を辿ってみてください。多数の星雲や星団を観賞することが出来るはずです。その西隣のいて座に銀河系の中心があるからです。

※7月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。


プロフィール:金井三男(かないみつお)さん

 もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。

 「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。