第168夜「たまにはプラネタリウムへ如何ですか」(2014年9月12日号)
今を去る91年前の1923年、その5年前に第一次世界大戦が終結したドイツのミュンヘンにあったドイツ博物館で、史上初めての公式プラネタリウム投影が一般公開され、観客のたいへんな支持を受けました。戦災で疲弊した人々は、種々の意味で人類初と言って良い星空の映像(と言っても、昨今のようなコンピュータグラフィックスで作画したものではない)に圧倒されたそうです。
人々の感動の声は、日の入り後、徐々に暗くなりながら西空だけは赤みが増し、やがてそれも消えかかると、空は濃紺から黒みを増し、空のあちこちに明るい星から順に光り始め、やがて満天の空へと変わったときに頂点に達し、思わずウォーという叫び声とも唸り声ともつかない音で、ドーム内が満たされたとき、プラネタリウムの発明者であるカール・ツアイス社の技術員の使命は達成されたと言われたほどでした。戦争という手段で国の進路を誤ったドイツ人が当時深く抱いていた反省心が、これによって技術立国ドイツとしての誇りとともに愛国心に変化したとも言われています。世界史の上でも、大事件だったようです。
それはそれとして、たまにはプラネタリウムへお出かけは如何ですか。私は昔東京渋谷にあった五島プラネタリウムで解説員をやらせて貰っていましたが、昼間の投影では、明らかに疲れた営業マンが、コーヒーの一杯は出ませんが、休憩を取る様子をほとんど毎日目撃してきました。いびきが響くことが度々でしたから、多分1時間ぐっすりお眠りになるために来場されたのでしょう。解説員の声や背景音楽は聞こえたでしょうが、眠るのにもってこいの暗黒と空調効果で、暑い夏や寒い冬には喫茶店以上の空間だったに違いありません。これを1時間300円程度で独占できたのは、願ったりかなったりだったと思います。
もちろん本来の目的である星空鑑賞を目された方もたくさんおられましたが、私にとっては、どちらも大切なお客さまでした。星や宇宙や夜空を楽しむのは、人によって様々な目的があってよいものなのですから。。。
※9月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。
プロフィール:金井三男(かないみつお)さん
もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。
「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。