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あつぼし見上げて夜話

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第165夜「参と商」(2014年8月22日号)



 中国に、人生相見(あいまみえ)ざることに参と商のごとしという有名な諺があります。オリオン(参)とさそり(商)が同時に見えることはないという意味です。

 果たして実話かどうか私は知りませんが、閼伯(あっぱく)・実沈(じっちん)というとても仲の悪い兄弟がいたので、兄は、さそり座の一等星アンタレス(中国では大辰星と呼ばれた)を祀る宋の商丘という場所に、弟は、オリオン座の有名な三つ星(中国では参星と呼ばれます)に関連する大夏という場所に、それぞれ送られたことに因むものです。

 今頃なら商(アンタレス)は午後11時前に、南東地平線下に沈み、翌日午前2時過ぎには、ほぼ真東から上ります。このため、この3時間ちょっとの間、参商相見ざるというわけです。

 このように星空での追い駆けっこ話は、ほかにもあります。オリオンがプレアデス(すばる星団)姉妹を追い駆け回すことや、牛飼いが大熊を追い払うことなどがその代表です。

 当然のことながら、その原因は星座が星座を追い駆けているのではなく、地球が自転しているからですが、昔の人はそうは考えなかったわけです。皆さんにぜひ計算していただきたいのですが、半径6400kmの地球が24時間で自転するときの速度は相当なもので、そんな高速で皆さんが空間を移動するのは、ある意味とんでもない話です。

 でも天体望遠鏡が発明されて以来、太陽も月も惑星も自転が確認されていますから、地球が例外になることはありません。日が上り、日が沈むのではなく、地球が回っているのです。そう考えて日出日没を見ると、大して有り難くも、もの悲しくも無くなりますね。

 でも、なぜ地球は自転しているのだろうと考えると、途端に科学的になります。その上、公転もしており、大局的に見るとこの宇宙に静止しているものはないし、時間的に変化しないものはないなど、考えてみればおもしろいですよ。人間だって、移動するし、成長するし……。つまり変化するものは、全て科学の対象なのですね。

※8月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。


プロフィール:金井三男(かないみつお)さん

 もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。

 「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。