第190夜「彼誰時、読めます?」(2015年2月13日号)
今頃宵空には冬の輝星たちが瞬いています。夜中には北斗七星やうしかい座のアルクトウルス、おとめ座のスピカと共に、木星が輝いています。未明の空には夏の大三角やさそり座のS字カーブと共に、同星座中に土星も見えています。木星は西空低く、水星が東空低くにいます。
そんな東空に黎明が差し込み始めるのが、東京では午前5時半頃です。6時半頃に日の出になるので、それまでの間、徐々に空は明るさを増してきます。最初の内は、そばに誰か立っていても、それが誰か良く判りませんね。こういう時間帯のことを、江戸時代の人は「かわたれどき」と呼びました。漢字で書くと「彼誰時」です。つまり、「彼は誰だ?」という意味です。
漢字で逆に書くのが「誰彼時(他に黄昏時とも)」で、「たそがれどき」と読みます。つまり「誰だ? 彼は」、から来ました。こちらは、日没1時間後ほどの時間帯のことです。まぁ、あいにく現在の日本では街灯が明るすぎて、このような風情は意味を成さないようですが、誰だか良く判る代わりに星が良く判らないことになっています。
でも、人工物による影響は人体には及びにくいせいか、人間体内のバイオリズムは昔から変わっていないようで、彼誰時は最も遅い夜間休息時間帯であることから、体温が最も低くなり、副交感神経活動が最高になり、血中メラトニン濃度が最高になり、身長が最高になり、尿排泄量が最多になり、血液粘度も最高になるそうです。また、レム睡眠時間帯であることが多いため、夢を見る頻度が高い、レニンやアルドステロンの血中濃度が高い、自律神経系の乱れが最大(自律神経の嵐)となり、身体が活動開始準備を始めていることから、副腎皮質ホルモン(コーチゾール)やインスリンの分泌が最多になり、甲状腺ホルモン濃度が最高になるため、同時間帯は、偏頭痛、筋萎縮性頭痛や気管支ぜんそくの発作が多くなるそうです。…いや、たいへん勉強になりますね。
※2月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。
プロフィール:金井三男(かないみつお)さん
もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。
「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。