集まれ!星たち〜ひとつひとつは微かでも〜

あつぼし見上げて夜話

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第195夜「夕方の空」(2015年3月20日号)



 日没が東京で遅くなり、いよいよ午後6時を回る頃になりました。そんな夕空で、星が見え始めるのは例年なら6時40分過ぎですが、今年は日没直後から西空に一つ明るい星が見えています。「宵の明星」金星です。ことによると日没前から見えているかも知れません。

 でも、オリオン座などが見える冬と比べると、一等星が数えるほどの春の夕空はいかにも貧弱ですね。古い日本語で、夕空に見える星のことを夕星(ユウヅツ)と言いましたが、これは正しくはユウツヅだそうで、そのツヅの語源は粒(ツブ)だという説があります。つまり、空にまだ薄明かりが残っている頃、星が粒のように見え始めるという意味なのかも知れません。

 このように、星空をご覧になって言葉の移り変わりをお考えになるのも、時には楽しいことですよ。例えば年。これをネンと読むと、元々穀物が稔るから来たとか、トシと読むと、登志(穀物のこと)からだとか。また、時(トキ)という言葉は、①疾く、②月(古代にはトクと読んだ)、③(紐を)解く、氷を溶くなどなど。黒(クロ)は、暗い、暮れる、蔵、熊、隈(クマ)と通じ、赤が明るいという言葉の縁語だそうです。こじつけと言ってしまえば、れまでですね。

 月(つき)については、①太陽に次(ツ)ぐ明るさ、②日神に次いで月神が創(ツク)られた、③月は尽(ツ)きる、だそうです。
一方、言葉には進歩や進化があります。ですが、江戸時代には「科学は進歩する」という観念が希薄で、進歩という言葉はありませんでした。進歩・進化という言葉は、明治時代に西洋語の翻訳として創られた言葉です。

 科学という言葉自体、明治四年に井上毅(コワシ)という人が百科の学や分科の学から創作した用語です。明治十年に科学に落ち着いたそうです。そういえば、いまはリケジョとかリケイと呼んでいる言葉は、昔は確かリカケイと言っていました。言葉は進化するというわけですね。

※3月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。


プロフィール:金井三男(かないみつお)さん

 もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。

 「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。