第223夜「アルデバラン食」(2015年10月2日号)
2日21時過ぎ、わずか1分ほどの間に、星がジワジワと登場するという面白い現象が起こります。東京では21時15分過ぎから16分過ぎにかけてのことになりますが、ほかの場所では時刻が異なりますので、できれば天文シミュレーション・ソフトなどを使って、事前にチェックしておいてください。
主役はおうし座の一等星アルデバランです。脇役は満月過ぎの西側がかなり欠けた月。そのかけた側から主役が登場します。月はデコボコがあるので、多少予報時間に誤差がありますが、欠けた側の空間から突然星が登場し、徐々に輝きを増すという現象です。
恒星といえども多少のサイズがあるので、特にアルデバランは巨星でそれほど遠距離にある星ではないので、つまり完璧な点像ではなく、星の一部が見え始めてから完全に出切るまで幾らか時間がかかるのです。月による掩蔽で、この星はそのサイズが初めて測定されました。1978年8月26日のことです。
実はこの月によるアルデバラン食には、いろいろいわく因縁があります。1497年3月9日には、コペルニクスがそれを観測し、以後天体の精密観測を始めたそうです。また、その遙か前の509年3月11日にアテネで観測された月によるアルデバラン食の記録から、ハレーは同星の固有運動、すなわち恒星が実は位置を変えている、運動していることを確信したのです。
残念ながら、今月2日のアルデバラン食は観測条件が良くありません。東京でも月が地平線上に上った直後にアルデバランが月の縁から出てくるといった状況で、隠れ始めるときが見えないことはもちろん、出てきたときの月と同星の高さは、満足行くのではありません。でも、好条件で観測できるチャンスが多くはありませんから、できればご覧ください。来月26日夕方、アルデバラン食が起こりますが、この時は当日が満月で、ほとんど欠けていない月の縁からの出現で、余り条件は良くありません。
※10月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。
プロフィール:金井三男(かないみつお)さん
もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。
「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。