第224夜「覚醒とは」(2015年10月9日号)
季節用語では8日が寒露(かんろ)と呼ばれ、太陽が黄道上で春分点から195度離れたときのことを言います。植物の葉に露が生じることを意味しています。つまり毎年今頃はもう秋なのです。
そんな中、日ごとに日没も早くなり(毎日1分~1分半づつ)、私が住んでいる東京では17時を切るのがもう目前です。実は最近よく耳にする(だけで実際は見たこともない)覚醒剤の醒は、目が開く又は醒(さ)めると言う意味を持つそうです。字体をよく見ると、酉偏に星と書き、旧時制である酉の刻(現代時制の17~18時頃)、季節としては旧暦八月頃を指しているのです。今年の旧暦八月は、八月に秋分が含まれるという原則から言うと、現行暦の9月13日から10月12日までが、八月になります。
つまり、日没から1時間ほどの間に、空はどんどん暗くなっていき、その間に特に一等星が西空にも見えてくる頃合いに目覚めるという意味ですが、覚醒剤と関係している人には夜空の星なんて関係がないでしょう。どうぞこれからも無関係でありますように!
でも目が醒めることと、星が酉の方角(西)に星が見え始めることと関係があったというのは面白いことですね。農耕民族だった古代日本人は、夕方には寝ていたということと、どうしても整合しません。ことによったら、この言葉の用法は、中国やアラビアの住民の感覚によっていたのかも知れません。
その夕方、北西の空には北斗七星が横に寝そべり、西と南西の空では、春の一等星アルクトウルスと夏の一等星アンタレスが一緒に、さよならを言っています。もう確実に季節は秋ですね。
けれども、スカイウォッチャーやスターゲイザー(共に星愛好者のこと)には、これからが惹起躍動の季節のスタートです。惑星・流星・変光星観測、何でもござれ。覚醒剤を頼らずに、夜の冷気によって身は引き締まり、眼も頭も冴え渡りますね。
※10月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。
プロフィール:金井三男(かないみつお)さん
もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。
「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。