集まれ!星たち〜ひとつひとつは微かでも〜

あつぼし見上げて夜話

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第46夜「銀河の窓」(2012年5月11日号)



 八十八夜を過ぎ、季節はいよいよ春から初夏になってきました。汗ばむ季節ももうすぐですね。なので、よければお部屋の窓を開けて、室内に良い空気を取り込みたいものです。

 週末から来週にかけては宵空に月がなく、季候も良いので晴れてさえいれば外で星を見ませんか。すると、心の窓まで開けることができます。なぜなら「銀河の窓」が大きくオープンしているからです。

 今の時季は「銀河」すなわち「天の川」が見える季節ではありません。宵空では銀河が寝ているからです。もちろん銀河がお休みしているのではなく、地平線低くに横たわっているのです。地球の自転によって星空が巡り、天の川が起き上がって、空高くかかってくるのは夜更けてからなので、今週末のように夜更けて月が昇ってくると自然に見えなくなり、安定しない空模様も加わって、日本ではこの5~6月に銀河を観望することは毎年、絶望的です。

 では「銀河の窓」って何でしょうか?宵に星空が見えたら、頭の真上を見てみましょう。この方角は、地平線を取り巻く銀河からもっとも離れた場所、つまり「銀河の窓」になります。ここには、かみのけ座という無名に近い星座があります。無名の理由は、ほとんど星がないからですが、もし望遠鏡をこの方向に向けると、無数の銀河が視野に入ってきます。

 ちょっとややこしいですが、この場合の「銀河」は天の川の別名として使う「銀河」ではありません。私たちの銀河系と同じたくさんの星の集団のことで、たいへん遠くにある天体です。昔は系外星雲とか、小宇宙といって、銀河系と明確に区別できる言葉を使っていました。今は、まとめて「銀河」とか、銀河系のことを「天の川銀河」と言う天文学者が多くなりちょっと紛らわしさを感じます。後者は同じことを繰り返して言うようなもので、私は好きではありません。

 かみのけ座方向に銀河が多く見える理由は、実際にその方向に銀河が偏在しているからではありません。それは、天の川の方向は、銀河系内の星や星間ガスが多くて遠くがよく見通せないのに対して、そこから離れた「銀河の窓」は、さえぎるものが少ないので、よく見通せて、遠くの銀河たちをたくさん確認できる、というわけです。

 天の川の位置と星の分布を観察しながら、私たちの銀河系の構造とその外に広がる広大な宇宙空間を思い浮かべられるのは、この時季ならではの楽しみといえます。

※5月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。


プロフィール:金井三男(かないみつお)さん

 もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。

 「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。