第71夜「赤い目玉のアルデバラン」(2012年11月2日号)
2日午前10時頃、惑星の王者(重さと大きさの両方で)の木星を西から東へと追い越した天界の女王(見かけの大きさで)の月を、その南西方向から長い角で突いているのが、おうし座です。そのV字型を牛の頭と見るのは、想像力が古代人より乏しい現代の我々でも、実に容易です。でも、日本人なら釣り鐘と見るのは更に容易でしょう。
月は、牡牛の鋭い突きで突き飛ばされて、その後一日につき、約13度東へ東へと離れていきます。ついてないですね。それに伴って、どんどんと欠けていき、7日には下弦、14日にはついに新月までやせ細ってしまいます。美人形無しといったところでしょうか。
おまけにこの星は、数少ない1等星食のうちのスターでもあります。21個ある1等星の中で、月に食されるものは、この星としし座のレグルス、おとめ座のスピカ、さそり座のアンタレスしかありません。
アンタレスを称して「赤い目玉のさそり」と歌った人は、あの宮沢賢治さんですが、私は「赤い目玉のアルデバラン」と歌うことにしています。なぜなら、ある天文学者曰く、1等星の中で1番赤いのは、アンタレスでも、ベテルギウス(ともに赤色超巨星)でもなく、アルデバランだそうだからです。
それはともかく、この星は月を突き飛ばすばかりでなく、実は自分自身も突き飛ばしているのです。この2000年間で月直径の約4分の1にあたる7分角も移動したそうで、とんでもない(いや飛んでいるくらいの)ハイスピードなのです。実はこれに最初に気づいた人が、あの有名なハレーさんです。
おまけに、太陽系に対しては秒速54kmという、これまたハイスピードで現在遠ざかりつつあります。32万年前に21.5光年まで最接近したことになり、そのときの明るさは、現在で最も明るく耀くシリウス(-1.46等)を超える-1.54等になり、この100万年間におけるチャンピオンになっています
※11月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。
プロフィール:金井三男(かないみつお)さん
もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。
「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。