第73夜「しし座流星群、今年はどうでしょう?」(2012年11月16日号)
1878年8月14日青森県西津軽郡に生まれ、東京帝国大学を卒業後米国に留学し、帰国後、一時東京天文台に奉職し活躍したが、進取の精神から野に下った気骨の人、一戸直蔵さんは、私の尊敬する天文学者の一人です。その著書『趣味乃天文』に1366年のポルトガルの記録を載せているので簡単にご紹介します。
ドン・ペドロ王が崩御された3か月以上前のある日の夜半から数時間、人々はそれまで目にしたことがない奇観を見た。天空状の星々が全て東から西へと動きだし、一所に集まったかと思うと、また上下左右に飛び出して一部は落下した。数えることもできず、火のように耀く様は凄まじく、まるで空が火事になったかのようだった・・・。
一戸先生は、これをしし座流星群の大出現とされています。しし群は902年のアラビアでの出現記録が最古のもので、凄い出現のためその年は「星の年」と命名されています。
1799年のドイツ人探検家で地理学者フンボルトの記録も貴重なもので、その著書『コスモス』には、空の一部として流星が飛ばなかった所がないという凄まじいものでした。このときの出現は、ある天文学者の推定では1時間当たり100万! 未だに世界記録です。
1833年の出現も物凄く、アメリカでは宇宙が割れた、空が燃えている、世の終わり! と表現されています。地にひれ伏す人もいたそうです。1966年のピーク時には、空があまりに明るかったため、日の出と間違え起床した人もいたと言います。新聞は冷気が大気中に稲妻現象を起こしたと報道したそうです。2001年の大出現も結構なものでした。
今年は流星物質を軌道上にまき散らす母天体が太陽から最も離れた付近にいるので、それほどの期待はできず、1時間で20個程度と見られていますが、未明の空に月明かりがないので、観望のチャンスですよ! このしし群は、21世紀は次第に衰えていくという嫌な予想もありますから、今のうちに見ておきましょう。
※11月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。
プロフィール:金井三男(かないみつお)さん
もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。
「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。