第93夜「春爛漫」(2013年4月5日号)
昼間の桜も色鮮やかで良いですが、星空をバックに風にそよぐ夜桜も風情がありますね。特に今週から来週にかけては、宵空に月が無く、絶好のチャンス!ですが、清少納言が書いた有名な枕草子には、三月と四月(今の4月と5月)に関連する記事が、各月たったの一つずつしかないそうです。また十月(11月)が一つ、十一月(12月)に至っては一つもありません。清少納言さんは紅葉が大嫌い、桜も嫌いだったからです。また白い頭をしてふらふら立っている薄(ススキ)も大嫌いだったそうです。お月見に薄を飾らなかったのでしょうか。
それとは反対に、五月(今の6月)は植物が薫り、緑が映えるので、一番好きでした。じめじめした梅雨空で、星が全く見えない日が続くので、私は逆に大嫌いですが・・・。
桜と紅葉の両者に共通することは、「散る」です。とはいえ、サクラチルよりは、サクラサクが良いですよね。「散る」に思いを寄せるのは日本の独特な美学だとは思いますが、みなさんは、散るのと咲くのとではどちらが好きですか。
ところで最近『日本の自然』というタイトルの本を古書店で買い、ちょっと勉強しました。それによると、今から5000年前(縄文時代前期)は、日本海に対馬暖流が入り、照葉樹林が繁茂し、森林限界も最高(本州で2600m超)に達して、過去の我が国で最高に温暖化した時代だったそうです。
このころの4月は、温暖化とは関係が無さそうですが、オリオン座は日没直後に沈み、宵空にはうしかい座、おとめ座などの春の星座がさわやかに見えていました。北斗七星なども北の空に高々と上っていました。
さらに今から1万6000年前くらいには、春の星座たちに代わって夏の星座が宵空の主役でした。しかも織り姫星が北極星で、さそり座などは南の空高く50度(今では高々30度ほど)くらいまで上りました。どちらも「歳差」という、地軸の傾きが長期的に変化していく現象のためです。
季節も星空も、まさに移ろいゆくのですね。
※4月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。
プロフィール:金井三男(かないみつお)さん
もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。
「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。