第95夜「技術は進む」(2013年4月19日号)
植物には、その役目を果たすものがたぶん無いでしょうが、人間などの高等動物には遠くや近くを見る目という器官があります。あまりにも当たり前なので、普段はその大切さに気がつかないものですが、私は星空を見上げるたびに、それを持っていることにもの凄いありがたさを感じています。
視力0.1ほどの超近眼で、眼鏡を手放すことができないのですが、とりあえず度数があった眼鏡や双眼鏡そして望遠鏡がありさえすれば、月のクレーターや木星の大赤斑、土星の環、すばるの群がり、オリオン大星雲、りょうけん座の子持ち銀河などを心ゆくまで楽しむことができています。
目という器官は、その意味では大変ありがたいものですが、残念ながらそれだけでは見ることができないものがたくさんあります。だから最近まで、私たちの太陽系以外に惑星が多数存在することは、誰にも分かっていませんでした。
ところが、そばを通り抜けた救急車やパトカーのサイレンの音が、急に低くなることで例えられる光のドップラー効果や、手前に来た系外惑星が光る主星を隠して暗くなるトランジット法、あるいはアインシュタインの唱えた相対性理論でそのことに気づかれた重力場での光進路の曲がりを利用して観測される重力マイクロレンズ法が、ごく当たり前の研究手段になって、今ではこの宇宙にめちゃくちゃにたくさんの系外惑星があることが分かってきました。たったの9個だった昔が大変懐かしいほどになっています。
そして、今では地球程度の小さなサイズの惑星も、見つかり始めています。そのうち半数近い4割が、直径で地球の約4倍、重さで地球の約17倍の海王星サイズのものだと言われてはいますが・・・。いすれにしてもちっぽけなもので、それが地球から数千、数万光年などという遠距離にあれば、当然、望遠鏡で像として見ることはできないものです。そのようなものを、新たなアイデアによって、さまざまな方法で見つけ出してしまう技術の進歩って、ほんとに凄いですね。
※4月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。
プロフィール:金井三男(かないみつお)さん
もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。
「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。