第9夜「はくちょう座は銀河鉄道の出発駅」(2011年8月26日号)
週明け29日12時4分が朔(新月)です。先月は31日3時40分が朔でしたから、29日8時間24分後に新月になりました。いろいろな天文表では、月の満ち欠け(朔望)周期が平均29日12時間44分とされているので、今回はちょっと短めになりました。
このように月の満ち欠け周期は変動します。どのくらい変動するのか、皆さんの手で天文表や暦などで調べてみるのはいかがですか。
週末から週明けにかけて、月明かりが邪魔しないので、そらの暗いところなら、天の川が見えるかも知れません。そこで宮沢賢治さんの有名な作品「銀河鉄道の夜」の列車が走った跡をたどってみませんか。
終着駅みなみじゅうじ座は、日本の大部分で見られず、沖縄の波照間島など行く必要があります。もちろん南半球のオーストラリアやニュージーランドに行けばバッチリですが、あいにくそこでは出発駅の方が見えにくくなります。中間のグァム島やインドネシアなどなら、どちらも見ることがたやすいです。
そこで出発駅ですが、今頃の日本では宵空で頭の真上によく見えています。銀河の上を南方に向けて飛ぶはくちょう座です。はくちょうに見立てた星座絵では、一等星デネブが白鳥の尾に当たりますが、銀河鉄道の場合はデネブが十字架のてっぺんに輝く星になります。クリスマスの夜、北西の空に垂直に立つこの北十字はこの物語に本当にぴったりです。
でも、天の川がその昔、聖人の道・英雄の道・死者の道と西洋で呼ばれたのを知ると、宮沢賢治さんでなくても、やはり天の川に浸る南十字と結んで見たくなりますね。河で溺れかかった人を助けた後、自らは溺れたご友人の死を聞いて、大急ぎでこの物語の主人公カンパネルラをその友人に置き換えたことを知れば、きっとみなさんもこの物語の見方が変わることでしょう。私もかつて銀河鉄道の研究で花巻を訪ねたことがありましたが、そのような内観的な風土を秘めた良い町だなぁと感じました。
※8月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。
プロフィール:金井三男(かないみつお)さん
もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。
「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。