第142夜「あの日の星空」(2014年3月14日号)
2011年3月11日、私は東京多摩地区のあるプラネタリウムで仕事をしていました。といってもあのときの解説担当は別の人だったので、私は図書室で調べ物をしていました。書棚の本が跳ねたことを覚えています。慌ててドーム内に入り、お客様の様子を見ました。幸い電源は切れていなかったので、お客様の表情や振る舞いを見ることはできました。みなさん怯え、席を立つ人は一人もおりませんでした。というより立てなかったというのが正解。もう一つ、解説担当者がとても冷静で、お客様を安心させておりました。もちろん怪我をしたお客様はいませんでした。ただ、投影中大きく星が揺れて見ていられなかったそうです。星が揺れるというのはまさしく異常ですよ。私も昔解説担当中、震度4の揺れに数回会いましたが、本当に気持ち悪くなりました。
電車は止まり、普段がらがらのバスも迂回した乗客で猛烈に混み合い、普段より数倍の時間がかかって帰宅したら、我が家の我が部屋は普段から古書で埋まっていますが、あの日は本の平原でした。何とか片付けたら、もうぎょしゃ座イプシロンの観測時間も過ぎかかり、慌てて4回だけ測光しましたが、心臓はドキドキパカパカでした。それでも同星の観測値に異常はなく、地球でどんなことがあっても、天体は異常を起こさないものだと実感したことを覚えています。
あの日、月がおうし座のすばる近くに、水星と木星はうお座にいました。その他の惑星は明け方の空にいました。今年のあの晩には、月も木星もふたご座にいました。その他の惑星は宵空にいませんでした。3日後の14日の夜に、月はふたご座の隣のかに座の、そのまた隣のしし座にいます。木星は変わらずふたご座にいます。
2023年3月26日には、月がすばるに近づき、1公転後の木星がうお座にいるはずです。しかし、あの日の惨状が繰り返されることはありません。
※3月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。
プロフィール:金井三男(かないみつお)さん
もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。
「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。