第153夜「タイコ星」(2014年5月30日号)
あと十日もすると、関東地方はあの嫌な梅雨に入る季節です。みなさんお住まいの場所ではいかがですか。じめじめする季節の始まりです。そんな夜、ちょっとの間でも晴れたときは嬉しくなりますね。
私が小さかった頃、半世紀を超えて、もう60年近く前になりましたが、あの頃は梅雨というとピカピカゴロゴロ、カミナリ様にオヘソを取られるよ!と怖がらされたものでした。
でも、その頃カミナリ様がどこかに行ってしまった後、忘れ物をしていることを知っておかしく笑ってしまった思い出があります。それがタイコ星です。
外国では、その半円形の星の連なりを王女様の頭を飾る冠に見ています。つまり「かんむり座」ですが、それはあまり日本的ではなく、また季節感もありません。もっとも、王女様の真ん中にダイヤモンドのように輝くゲンマ(ジェムすなわち宝石)という名前の白い2等星は、いかにもそれらしく見えます。
その点、タイコ星は白い星のことはありませんが、カミナリ様がおられます。その方がどこかに行ってしまった後は、夜空がすっきりと晴れ上がって、今晩なら夜中の11時頃ほとんど天頂にそれが見えています。
星座自体は、暗い星が多いので見つけづらいので、うしかい座の1等星アルクトウルスと、こと座の1等星ベガを結ぶ線を、アルクトウルスから1/3ほどのところを探してください。半円形の星のつらなりが見えればそれが「タイコ星」です。
カミナリ様が持つ太鼓と言っても、実際にはどんな形をしているのかよく分かりませんから、デンデンダイコと言えば良いでしょうか。インドの人たちが言う「欠けたお皿」というのも味わいがある名前ですね。
月明かりがないスッキリと晴れた晩は、そのお皿の中に星があるかないかも確かめてみましょう。かんむり座Rという変光星で、時おり星の中から炭素ガスを吹き出し、自分の周囲をまるで忍者が身を隠す火遁の術のようにする、面白い星があります。
※5月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。
プロフィール:金井三男(かないみつお)さん
もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。
「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。