第154夜「かまぼこ月」(2014年6月6日号)
私は、小さい子どもには、三日月をバナナ、満月をおまんじゅうと紹介しています。どちらもおいしそうですから。ちょっとハイカラな女性には、三日月をクロワッサン、満月をシュークリームと申し上げています。とすれば、半月は何でしょう。そう、かまぼこです。余りハイカラじゃないかな…。
入梅した地域が多くてお天気が心配ですが、今日6月6日は、そのかまぼこが宵空にぶら下がっているはずです。それも地平線に近づくに従って、全体に赤みがかってくる、おめでたいかまぼこですね。
ただ6日の半月は、輝面比0.56と言って、明るい部分が56%、暗い部分が44%なので半月を少し通り過ぎています。前日のそれが0.46ですから、ちょうど半月になったのは6日の朝で、日本では月が昇っておらず、見ることは不可能でした。
でも何はともあれ、望遠鏡や双眼鏡をお持ちでしたら、こういうときに月のクレーターをご覧ください。月面の凹凸は、日光が真横から当たる時に、陰を一番長く伸ばしますから、はっきりと見ることができます。明暗界線といって、要するに月の欠け際がクレーターの様子を明確に見ることができます。
その点、お月見の時のような満月は、望遠鏡でお月見はオススメできません。ほとんどのっぺらぼうだからです。つまり望遠鏡で月を見てクレーターを観察するには、かまぼこ月、すなわち半月頃が一番オススメなのです。各地のプラネタリウムや天文台で月の観望会が企画されるのは、ほとんどそんなときになります。
でも、月はいつでも望遠鏡で観測するのが一番です。なぜなら、細かい凹凸がいつも変化して見えるからです。昨晩見たクレーターの影が、今晩は微妙に変化していることを発見すると、みなさんはきっと毎晩月を見ることのトリコになってしまうでしょう。
何かが変化することを発見することが、科学の本質です。そんな科学の魅力にあふれた月の観察を、みなさんもぜひ続けてみてください。
※6月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。
プロフィール:金井三男(かないみつお)さん
もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。
「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。