集まれ!星たち〜ひとつひとつは微かでも〜

あつぼし見上げて夜話

目次

第246夜「木星が今晩も輝いています」最終話(2016年3月11日号)



 9日は、日本の多くの地域でお天気がよくなくて久しぶりの部分日食を観察できなかった人も多いことでしょう。でも、ということは9日が新月です。星空を観察するには月明かりがなくて絶好の時期です。スッキリ晴れわたったすがすがしい星空が期待できます。

 今から406年前の3月、1冊の大変注目された本が出版されました。ガリレオの『星界の報告』というものです。今、私は『ガリレオの生涯』(1977年刊)というガリレオの伝記本にハマっています。400頁近くある本なので、完読に時間がかかりましたが、この本から多くのことが学べます。みなさん良くご承知の通り、ガリレオはその後教会から断罪されましたが、そのことより今、私が考えさせられていることは、ガリレオが望遠鏡で木星の衛星を見つけ、これがガリレオをして地動説を確信させたという事実です。

 私は、出会いと言うことの大切さをこのことから痛感するのです。みなさんは望遠鏡というものをよくご存じでしょうが、当時の人々のほとんどは、それで見る天体は幻影かトリックだと信じていたようです。そんなことはあり得ないと頭から決めつけていたようですね。大地震や津波なんてあり得ない、考えたくもないと誰もが思っていませんでしたか。隕石が原発に当たるなんて、確率的に無いはずだ、とも思っておられませんか?

 実は、科学は自分の目や感覚を素朴に信じることから始まります。そして、それを先入観のない目でとらえ、あるがままを観察してデータを集めていく…すると、今まで世の中で常識と思われていたことが、じつは単なる思い込みだった…ということもありえます。自然は、私たちがいつも真摯に向き合うことによってのみ、その真の姿を明らかにしてくれます。科学はその先人たちの努力の積み重ねの上に立っています。

 望遠鏡をお持ちでしたら、ぜひ今晩、夜空に輝いている、ガリレオの心を変えた木星の姿をご覧下さい。すると間違いなくものの見方が変わるはずです。

 震災から5年がたちました。自然はときに猛威を振るう一方で、美しい星空で今宵も私たちの目を楽しませ、心を癒し、真実を見究めるチャンスを与えてくれます。私は、その面白さや不思議さをお伝えすべく、これまで5年近くにわたってこのコーナーでつたない文章を書かせて戴きました。本当にご愛読ありがとうございました。関係者の皆様のご尽力に厚くお礼を申し上げます。

 いつまでも星と同様、皆様が輝き続けますように。また、どこかの星空の下でお会いしましょう。

※3月の星空のようすは、「国立天文台ほしぞら情報」をご覧ください。


プロフィール:金井三男(かないみつお)さん

 もと天文博物館五島プラネタリウム解説員。40年近くプラネタリウムの仕事を通して、天文教育・普及に努める。変光星観測家としても知られる(食変光星アルゴル極小肉眼測定回数通算380で世界記録を更新中)。その平易な語り口と、膨大な資料渉猟に基づく天文知識の豊富さで、各種メディア・講演会などで活躍中。

 「私は学者ではありませんが、科学の普及を旨とする星の解説員として、こういうときこそ、被災者の皆様をはじめ、できるだけ多く方々に、星を見ること・調べることの楽しさをお伝えし、皆様の目が少しでも夜空に向くならば、と思ってこのキャンペーンへの参加を希望いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」。